小坂忠 / ありがとう (1971)

ありがとう

そういう人はけっこう多いかもしれないけど、まずは『ほうろう』の方を聴いてヤラレまくってました。はっぴいえんどスライ・ストーンの合体だ!とか言って。今にして思えばそんな単純なシロモノではないのだが、とにかくそんな感じで興奮していたわけです。それで同じようなものを期待して、遡って『ありがとう』を手にしたんだから、なんだこりゃ?とズッコケても仕方なかった。のです。

とは言え、期待した音とのギャップがデカかったことをさっ引いたとしても、何故この良さが判らなかったのかってのは我ながら釈然としない。『HOSONO HOUSE』がお気に入りだったにもかかわらず。

思うに、当時の自分にとってはこのアルバムの音はあまりにも「いなた過ぎた」のかもしれない。まだまだレアグルーヴ気分が抜けきらず、音楽を聴く上でファンクの占める比重は絶大であった頃です。『ありがとう』は、カントリーとかフォークロックとかそっちですから。だいたいジャケ見りゃわかるじゃん、て気もしますが。それに加え、実は小坂忠の歌、声が苦手だったというのも、ある。正直なところ、今でもそれは克服できてなかったりするのですが。

それでも、数年後には『ほうろう』よりも『ありがとう』のほうに自然と手がのびるようになり、気付けば日本のロックで5本の指に入る大傑作!になっちゃいました、自分にとって。

『ありがとう』の何がイイって、音がイイです。素晴らしくイイです。当然のことながら、音がイイというのは、音質がクリアーという意味ではないです。むしろボテっとしている。モッチャリしている、といったほうがいいか。意味わかんないけど。要は、しみる音なんですよ。何言ってんだお前って感じですか?聴けばわかりますよ、一曲目「からす」のイントロを聴けば。

まず右のスピーカーからアコギ、あれ?今かけてるのはジェイムス・テイラーだっけ?と思っていると、左から、世の中にこれ以上いなたい音があるのか?というフィルでドラム。すでに号泣。モコ〜っとしたベースもイイ。全部イイ。だけどやっぱり最高にイイのはドラム、特にスネア。おれも、おれもこういう音で録音してみてえ!って感じですよ、まったく。

まあ、しかし『ほうろう』にしてもそうですが、小坂忠名義ではあっても実質、細野晴臣のアルバムだよなーとは思いますなあ。だいたいタイトル曲の「ありがとう」、作詞作曲編曲したうえにリードボーカルまで奪っちゃってますから(笑)