The Beatles / Let It Be (1970)

Let It Be

誠に遺憾ながら、僕が最初に聴いたビートルズのアルバムは『Let It Be』である。「家にあった」んである。僕は非常に失望した。なんだこりゃ?これがビートルズか、やる気あんのか。しかし当時の少年の感想は正しかった。実際、4人中3人はやる気なかったのだ。

以後10年以上もの間、僕の中で『Let It Be』はカス扱いだった。いや、今でもカスはカスなのだが、愛おしいカスに変わった。いつからかと考えると、たぶんザ・バンドを好きになってからじゃないかと思う。別にザ・バンドの音楽と『Let It Be』は似ていないのだが、ザ・バンドを好きになって以降自分の中で音楽の聴き方が微妙に変わったような気がしている。

ホワイトアルバムにうっすら漂っている倦怠感のようなもの、「I'm So Tired」の気分を拡大して敷き詰め、もう救いようがないほどの倦怠感を醸し出しているのが『Let It Be』で、そこが心地良かったりする。そういう意味で、フィルスペクターの仕事に拍手を送りたい。よく「The Long And Winding Road」にこってりオーバーダブしたことについて批判されたりしているけど、僕にとってはその曲自体がどうでもいいので問題なし。「Dig It」の使い方や次のタイトル曲へのつなぎも秀逸だし、大仰なタイトル曲をA面のラストから2曲目という半端な場所に収めているセンスも好きだ。幻のアルバム『Get Back』を聴くならこんな音質じゃイヤだけど、『Let It Be』はこれでいい。

その思いをさらに強くしたのが3年前に『Let It Be... Naked』(なんてえセンスのないタイトルだ)が出たときだ。あまりの音の良さに腰を抜かしたわけだが、それよりも何よりも意外なほどに演奏がハツラツとしているじゃありませんか。特に「I've Got A Feeling」なんか聴くと倦怠感どころかノリノリ絶好調ですよ。

中でも唖然としたのは「Two Of Us」だ。同じ曲がミックス/音質にここまで左右されるものなのか。しかも同じテイクなのだ。もちろん、私だって宅録者のハシクレとしてミックスや音作りの重要性は認識しているつもりだが、ここまでとは思わなかった。「Two Of Us」が爽やかなのだ。あの、この世の倦怠感をすべて背負っていたはずの「Two Of Us」が。慌ててオリジナルのほうを聴く。もの凄い倦怠感。ホっとする。こうなってくるとスライ『暴動』のリマスターとかが出るのも考えものだ。ハツラツファンクの『暴動』など聴きたくない。

Two Of Us」は『Let It Be』の中で一番好きな曲だ。ジョンとポールのハモリも、ビートルズ全曲の中でこの曲のやつが一番いい。ルーフトップのライブ映像で、関係最悪のはずの2人が「Don't Let Me Down」の演奏中に微笑み合うシーンがあり、僕は不覚にもジーンとしてしまうのだが、「Two Of Us」は音からそれに近い感触を得られる。だからネイキッドバージョンは禁止ね。