Marvin Gaye / Let’s Get It On (1973)

Let’s Get It On

どんな音楽が好きなんですか?的な質問を、どう考えてもたいして音楽好きそうじゃないやつからされた場合には、「ソウルミュージックとか、好きですねえ」などと答えることにしている。

「ファンク」というのはかなりの確率で「パンク」と聞き間違えられる。「ロックです」ていうのはあまりにも漠然としてるし、妙に話が長引く恐れがあるし、なんか頭悪そうだ。「ジャズです」ていうのはなんか賢そうだしバッチリなんだけど、嘘はよくない。

それで「ソウルです」というのが一番無難なわけです。ところが、もしかしたらこれも嘘ついてるかもしれない、と最近思うのです。なぜなら僕にとって最高のソウルミュージックとはボブマーリーだからです。サムクックのレコードは持ってないし、オーティスレディングを聴いて感動したことはないし、モータウン派でもスタックス派でもないし、さらに決定的なことに『What's Going On』て特に好きでも嫌いでもない、のです。

ただし『Let's Get It On』なら大好き。これは自信ある。運悪く質問者がソウル詳しかったりして『What's Going On』について熱く語ってきたとしても、いやいや僕は断然『Let's Get It On』派ですね、神よりエロです!と切り返すこともできる。

『Let's Get It On』は、やりたいやりたいやりたい、というアルバムである。それは単に歌詞がどうとか、セクシーなお姉さんのあえぎ声が入っているとか、そういう問題ではなく、サウンドプロダクションがとてつもなくスケベなのだ。

冒頭タイトルトラックのイントロ、ワウギターの半小節だけでそれがわかります。絡みまとわりつくようなリズムトラックがまたいやらしく、時折たたみかけるようなフィルを叩くのだがそれがまた激しいけど痛くはしないよ的なやりくち、途中から入ってくるストリングス&ホーンがこれまた赤面もののスケベっぷり、しかもうしろではワウギターが糸引きっぱなし。そして言うまでもなくボーカルワークも素晴らしい。これ、いったい何回くらいオーバーダブしてるんだろう。いろんなマービンの声がきこえてきて、どれも素晴らしく的確にいやらしい。コーラスパートも含め、これだけゴージャスな編成なのにきっちり隙間を感じられるっていうのは完璧なアレンジだと思う。

タイトルトラックのリプライズみたいな「Keep Gettin' It On」て曲がまた最高で、一回終えたのか「Let's Get It On」ほどネットリしてなくて妙に爽やかエロなとこが笑える。この2曲を交互に延々リピートして聴くのもかなり気持ちいい。

蛇足。映画『ハイフィデリティ』は原作の面白さと比べると非常に不満な出来だったが、唯一ラストのライブシーンは最高だった。原作では「Twist And Showt」をバンドが演奏するところが、映画では意表をついて「Let's Get It On」、ぞぞぞと鳥肌が立ちました。